父、失踪
先日、82歳の父が近所の歩いて行ける歯医者に
朝9時の予約で出かけました。
歯が痛いと言い出してしばらくしたころ、
近所の歯医者に行ってみるということになり、
車で送っていったことがありました。
杖をついて歩くので時間がかかるのですが、
歩いて行けない距離ではありません。
その日は自分も仕事が休みだったので、
また車で送っていこうかと声をかけました。
しかし一人で歩いていくというので、
それ以上はいいませんでした。
同じ日に母は午前中、
車で別の病院に出かけたので、
家には私だけでした。
11時くらいに、玄関の開く音がして、
誰かが帰ったような気配がしました。
2階にいたので
はっきりとはわかりませんでしたが、
母が誰かとしゃべっているような声が聞こえたので
2人とも戻ったのだと思っていました。
その後1時間ほど経ち、
12時近くになって
母が父が戻ってないと言いだしました。
誰かとしゃべっていると思ったのは
声をかけたけど
誰もいなかったということだったようです。
あわてて歯医者さんへ電話をかけて
聞いてみたのですが、
当然のごとく、診療はすぐに終わって
すぐに帰られましたということでした。
9時半に歯医者さんを出て、
すでに12時前なので、
長く見積もっても歩いて30分の距離です。
どこか別の場所に行ったのだと思いました。
しかし我が家は山の上にある団地で、
バスに乗るとかしないと
遠出は難しいところにあります。
事故にあった可能性もありますが
救急車の音は聞こえませんでした。
とりあえず探しに行くことになり
車を出しました。
まずは歯医者さんへ向かう道を走りましたが、
あたりは平和そのもので
事故が起きた様子もなく、ほっとしました。
次に思い浮かんだのは、いつも酒を買いに行く
山をくだった道路沿いにある
ドラッグストアのコスモスでした。
しかしそこまで歩いていくには、
かなりの距離があるし、
重たい酒の瓶をかかえて
持って帰る体力はないので、
99%ありえないと思いつつも、
他に思いつく選択肢がないので
とりあえずコスモスの駐車場まで行って、
しばらく店の入り口を眺めながら待ちました。
その間に母に電話をかけて
戻っていないか聞いてみましたが、
やはり何も進展はありません。
仕方なくもし歩いて家に帰るとすれば
この道しかないというルートを
たどりながら帰ることにしました。
運が良ければ
そこで発見できるかもしれません。
その道すがら、
1台の車が不自然に道路の端ではなく
やや道路の真ん中よりに
停車していました。
珍しい止め方だなと思いながら
そのまま停車した車が走り出すまで
しばらく待って、その車の後に続いて
団地にのぼる坂道をあがりました。
坂をのぼりきってしばらく進むと
我が家なのですが、
その前を行く車は
私の前をずっと走って、
また我が家の前のあたりに停車しました。
はじめはどうしてそこでまた停めるのか
意味が理解できずにいましたが、
なんとその車は父を見つけて
家まで送ってくれた
歯医者さんの受付の人の車だったのです。
先程、電話で問い合わせた歯医者さんが、
仕事が終わって
スーパーに買い物に出かけたところ、
偶然にも
見たことがある人がいると
見つけて下さったのが父だったのです。
そのまま家まで送ってあげようとして
バス停にいた父を
車に乗せてくれているところへ
私がやってきて、
父を乗せてくれた車の後をくっついて
家の前で追いついたというオチだったのです。
親切な歯医者さんです。
電話をかけて問い合わせしたことも
功を奏したのだと思います。
何度も丁重にお礼を伝えました。
それで結局のところ
どうしてそもそもこんな時間に
父がバス停に
いたのかということなのですが、
歯医者が終わった後、
誰にも言わずに
団地の下にあるかかりつけ医に
無理して一人で歩いて行って
帰りはバスに乗って帰ろうと
していたからでした。
いずれにせよ
かかりつけ医にいってくるということは
家族の誰も何も聞いていなかったので、
こんな大騒ぎになったのでした。
父は糖尿病なのですが、その薬が
あと1日分しかなくて祝日前に薬を
もらいに行く
必要があったということでした。
それならそうと
家族に歯医者とかかりつけ医に行ってくると
言ってくれれば
すんだ話なのですが、
最近ニュースで、
高齢でいきなり行方不明になった人が
数日後に側溝で
遺体で発見されるというニュースを
見たばかりだったので
余計に焦りました。
さらに話はこれで終わればよかったのですが、
この日はさらに続きがあります。
かかりつけ医に診てもらいに行って
処方箋をもらったところまではよかったのですが、
手持ちがなくて
なんと薬局で薬をもらってきていないことが
判明しました。
夕方になってわかったので、
薬局が何時まで営業しているか確認して
代理で薬をもらいにくことになりました。
ちょうど夕方の大渋滞する時間帯で
近い病院なのですが、
行って帰るのに1時間以上かかりました。
おまけにいつもは本人が薬をもらいに来るのに
別の人間が取りに行ったので
「何かおありになったのですか?」と
若干怪しまれながら
心配されてしまいました。
家に帰った後、
今度は今日飲む酒がないと言いだしました。
さっき病院に行くときに
一緒に行って酒も買いにいく?
と聞いたのですが、
その時は「いかん」といっておきながらです。
渋滞で疲れたと言うと
「山越えの道を行けばすいとる」といって
車が1台かわすのも厳しいような道をとおって
山越えしてコスモスに向かいました。
道中、道が狭すぎると文句を言うと、
助手席で鼓膜が破れそうな大声で
「ギャアギャア」わめかれて、
耳が痛くなりました。
この日は失踪の捜索から
薬局とコスモスまで
父のために3回も車を出して
休日が終わりました。
しかし無事でなによりでした。